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開け放したままのドアを一応ノックする。
二回。
ややして、めんどくさそうな生返事。
「寝てんの?」
「寝てへんよ」
うー、とか、あー、とか、唸るばかりでこちらを見ようともしない。
「だよねえ、いくら何でも開けっぱなしはマズイでしょ。まあ盗られて困るようなモンもないだろうけど」
勝手に備え付けの椅子に腰を下ろして、衛星中継のスイッチを入れる。
ああ、駄目だ。ノイズばかりで何も聞こえやしない。
別に大して意味もないので、とっとと諦めてスイッチオフ。
一瞬の静寂。
「あらやだ、この辺りは物騒らしくてよ?」
片腕で頬杖、その台詞回しは何のつもりかな?
「ああそりゃ大変だ。せめて命だけは見逃してあげてよね」
そっちかい、と突っ込まれるのを期待して。
「さぁ、どやろな。身のキケンを感じたら、うっかり撃ってまうかも」
あら、意外とあっさり肯定ね。
って、言いながら、きっちりこっちに銃口向けてくるのやめてくれるかな。
御丁寧に安全装置まで解除ですか。
そゆことされると、ホントに襲うぞ。
「閉まらへんねん」
「は?何が?」
「だから、ソレ」
ああ、ドア。
言われてガタガタ引っ張ってみると、なるほど確かに動かない。
「とんだぼったくりやな」
「野宿よりゃマシでしょ」
後ろ頭をガシガシかきながら身を起こし、くあ、と猫みたいな大あくび。
やっぱ寝てたろ。ドアなんかどうでもいいくせに。
「で?」
「うん?」
「そっちは」
「ああ、シャワーが水で」
「…ええやんか、別に」
「こっちお湯出るだろ?」
「出るけど」
「お邪魔します」
「じゃ、交換な」
「え?いや、それ違くない?!だって君もう、シャワー使ったろ?」
「だから何や」
「で、ドアの閉まる部屋で寝る、と」
「おお」
「ずるくない?!」
「ずるないわ、アホ。早いモン勝ちや」
うわ、悪い顔。
あーそんでとっとと行っちゃうわけね。あーそうですか。
立ち去りかけた背中越しに、投げ掛けられる低い声。
「オイ」
「何」
「鍵、寄越せ」
…チッ、バレてら。
「底が割れとるっちゅーねん、クソガキ」
ハイハイ、すみませんでしたー。
「この辺りは物騒やって話やからな。寝首かかれんよう精々気ィつけや」
「わお、ソレってば夜這いの予告?」
「何が悲しゅうてドア全開でナニせなあかんねや」
「それはそれで俺としてはまた別の意味で燃えるというか」
「頭冷やしたほうがええんちゃうか?丁度この部屋のシャワー、水しか出えへんし」
「…え?」
「ホントはそっちの部屋、お湯出るんやろ」
「…うん」
「ほな、おやすみ」
「………」
えー…、ハメるつもりがハメられました。
ってことに、なるのかな?なるね?なっちゃうね?
…泣いても、いいかな…。
薄焼きのパンと、何か硬くてやたら塩辛い、コレ何の肉?
胡麻の風味の葉っぱのサラダ、スモークのチーズ。
シードルじゃあ物足りないなあ。
ラム?え?ブランデー?わあお!贅沢!
きみがいなくても
いやそんな、いいですよ、そうですか?悪いナァ。
おねーさんイケる口だねー。
オイコラ少年!何…あいたたたたギブギブ!!
出るから!マジ出ますから、なんかコレ鼻から!!
きみがいなくても
お父さん昼間の?どうよ、いや、俺じゃなくて。
うーん、あーヨク言ワレマスネー。って、うるせーぞこのガキ!
よおしわかった、覚悟はいいな?変し…っだー!!
変身中は攻撃しないのが暗黙ルールだろうが!
きみがいなくても
まあこれからが大変だよね。
差しあたっては修繕費?
…半分俺ですか。でーすーよーねー。
いや、このとおり。スミマセンでした。
きみがいなくても
ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。
ハハ、そうかな。嘘でも嬉しいや。
ごめんね、頑張って。
ホラ、俺ってば愛の狩人だから。
きみ は いない の に 。
月は五つ
風は吹く
街は生き
僕は幸せ
そうさ
きみがいなくても。
例えば君が口にしたら
それはつまり僕の勝ち
そうだろ?
ベクトルがどうあれ大事なのは絶対値
前向きすぎるって?
そりゃもちろん計算だけどね
傷つきたくないのは誰だってそうだろう
だからこれは僕なりの自己防衛
「だいすき」になってもらえないなら
「だいきらい」になってほしいんだ
欲張りでごめんなさい
占領したい占領したい占領したい
ああほらそうやって笑う!
「だったらこうか?“出会えてよかった”」
…うるさいよ
どうしよう、幸せなんですけど。